TVドラマ「ペーパーハウス」の貨幣論
まだお正月気分が抜けないので、今週と来週は、肩の凝らない話題を書くことにします。まずはTVドラマ「ペーパーハウス」について。
インターネットで動画を有料配信するNetflixは、創設から27年という新興企業ですが、いまや世界で2億8000万人が加入し、日本でも有料会員が1000万人を超え、急成長を続けています。
会員数は「メガヒット」と呼ばれる人気作品が登場すると、グンと伸びます。最近では2021年に配信された韓国制作のドラマ「イカゲーム」が94か国で視聴ランキング1位を獲得し、話題になりました。
「イカゲーム」の一つ前のメガヒット作品が、スペインで制作された「ペーパーハウス」です。2017年から4年間にわたってシリーズ5まで配信され、世界で6500万世帯が視聴し、「ネットフリックス史上、最高のヒット作品」と呼ばれました。

物語は、「教授」と呼ばれるリーダーが犯罪者8人を集めてスペイン王立造幣局を襲うところから始まります。見学者を人質にとって立てこもり、人質全員に犯人と同じ赤いつなぎのジャンプスーツを着せ、画家ダリのお面をつけさせます。人質と犯人の見分けがつかなくなり、警察も軍も手が出せません。
装甲車や武装警官が包囲し、テレビが現場中継を放送するなかで、犯人たちは造幣局の印刷技術者を脅し、ユーロ紙幣を印刷させます。目標は24億ユーロ(約3000億円)。警察幹部と犯人グループを結ぶ電話のホットラインで、警察幹部は「強盗団とののしりますが、リーダーの教授は「私たちはカネを盗むのではない。カネを作っているんだ。政府と同じようにね」と反論します。
彼らの犯行は、どんな罪に該当するのでしょうか。彼らがつくるのは本物のユーロ札なので「紙幣偽造」ではありません。紙とインクを盗み、輪転機を勝手に使ったことは事実ですが、その紙代やインク代はわずかなものです。
ドラマを見ているうちに、自分たちがいま使っているおカネは、国家が輪転機で印刷した紙切れに過ぎないのではないか、という疑問が浮かんできます。昔のおカネのように金や銀の裏付けがあるわけではなく、ただ法律によって使うことを義務付けられている「法定通貨」。彼らはその札束を持って逃走します。
シリーズの続編で、彼らはスペイン中央銀行の金の保管庫を襲います。金本位制は廃止されましたが、中央銀行は通貨の信認が得られるように「準備資産」を持っており、そのうちの一定比率を金で保管しています。
犯行グループはまたしても中央銀行に立てこもり、数十トンもの金塊を奪おうとします。この計画に対して、政府の上層部は「金塊が奪われたら、ユーロの信認が揺らいでしまう。スペインだけの問題ではなく、欧州の経済が計り知れない打撃を受ける」として、警察と軍に犯行阻止を命じます。
これに対して、リーダーの教授は12.5kgの金のインゴットとそっくりの模型をたくさん用意していて、金の保管庫にそれを並べて逃走します。政府には「保管庫の内部を撮影して、その写真を発表すればいい。本物か模型か区別はできない。数年は国民をだませるだろう」と伝えます。
国民は、金塊が本物かどうかを知る方法がありません。ワールド・ゴールド・カウンシル(世界金評議会)やIMF(国際通貨基金)が定期的に発表する「各国の中央銀行が保有する金」の数字を信じるしかないのです。
しかも、レバノン中央銀行のスキャンダルを紹介したときに書きましたが、その数字は原則として各国の中央銀行が公表したものに過ぎないのです。
国家や国の経済が「法定通貨」という薄っぺらい紙でつくられている――「ペーパーハウス」というタイトルは、そういう危うさを示唆しているように思います。(画像はNetflixから、サイト管理人・清水建宇)