「金」の眼鏡で見た おカネの風景

NY連銀が保管している各国の金塊にも疑惑がある

 ニューヨークの中心部であるマンハッタンは、川や海で囲まれた「島」です。この島は東京の山手線の内側とほぼ同じ広さですが、一つの岩から成り立っており、地盤が強固なので、高層ビルが林立しています。

そのマンハッタンの南部にあるニューヨーク連邦準備銀行は石造りの建物で、荘厳なたたずまいが目を引きます。高さは10階建てほどですが、地下24メートルまで掘り下げ、巨大な金保管庫を設置しています。

 そこにあるのは主に外国の政府や中央銀行、IMF(国際通貨機関)など33の公的機関から預かったものです。それに米国財務省の金400トン余りを加えて、総重量は約6200トン。フォートノックスの米国金保管庫を上回り、世界最大の金庫といえるでしょう。

 ノルウェーにある「穀物種子貯蔵庫」、米サンディエゴにある野生動物の遺伝子を保存する「冷凍動物園」と並んで、世界の三大貯蔵庫のひとつに数えられています。

The Vault entrance at the Federal Reserve Bank of New York.

 ここには、世界中の中央銀行が保有する金塊の5分の1が集まっています。なぜ外国の政府や中央銀行はニューヨーク連銀に金を預けるのでしょうか。それは、政府や中央銀行の金取引は規模が大きく、売買のたびに大量の金塊を運ぶことが難しいからです。

 ニューヨーク連銀の金保管庫には122の小部屋があり、一つの部屋は一つの顧客だけに対応しています。A国がB国からドルで金を購入した場合、入金を確認したうえで、B国の部屋からA国の部屋へ金塊を移動させるだけで取り引きは終了します。

 保管されている金塊はすべて、持ち込まれたときに純度、鋳造者の名称、刻印などが記録されており、金を移動するときは2人の連銀係員と1人の監査職員が必ず付き添います。人の動きを感知するセンサーがあちこちに設置され、監視カメラが24時間見張っています。

 保安システムは万全のように思われますが、連銀が預かる金塊に対しては以前から疑問の声が上がっていました。独立した第三者による監査を受けたことがなく、連銀が公表する数字を確かめることができないからです。

 さらに、最も多い金塊を預けているドイツ連邦銀行が、一部の金塊を本国に戻そうとしたときのミステリーが、ニューヨーク連銀への疑問を強めました。

 2010年代の初め、「ドイツの金はドイツ国内で保管すべきだ」という声が高まりました。準備資産である金は、経済が破綻しかけた時の最後の「頼みの綱」です。ワイマール共和国時代に、荷車いっぱいに積んだ紙幣で一袋のジャガイモさえ買えなくなるほどの通貨暴落を体験したドイツ国民は、金塊の保管場所に神経を尖らせました。

 中央銀行であるドイツ連邦銀行は2013年に「金塊本国送還」計画をつくり、保有する金塊の45%、約1500トンを預けていたニューヨーク連銀から、ドイツへ戻す取り組みを始めました。しかし、初年度に取り戻せた金塊は、たったの5トンでした。

 前述したように、ニューヨーク連銀の金保管庫は顧客ごとに部屋が割り当てられられており、「ドイツの部屋」から金塊を搬出して空輸すれば済むはずです。翌年は85トン、その翌年は100トンに増えましたが、3年かかって取り戻せたのは、預けた金塊の12%だけでした。

 しかも、取り戻した金塊は純度が低いものでした。金貨や宝飾品を溶かして鋳直した「コインバー」と呼ばれる規格外の金塊です。このことが明らかになったのは、ドイツ連邦銀行の幹部が「市場基準を満たさない金塊をヨーロッパで精錬して作り直した」と発言したからです。

 一方、同時期の2014年11月に35トンを取り戻したオランダは、請求後ほどなく本国送還を実現し、しかも純度は市場標準の99.5%だったので、精錬のし直しも不要でした。
 
いくつも疑問が湧いてきます。ドイツが取り戻した金塊は、ドイツが預けたものだったのでしょうか。ドイツが大量の金を購入したのは1960年代でした。大恐慌の米国で国民から没収した金貨や宝飾品を鋳直した低純度のコインバーはなく、市場で高純度の金塊を入手し、ニューヨーク連銀に預けたはずです。

 ドイツに返還された金塊は、なぜ鋳直す必要があったのか。有名な金分析家のロナン・マンリー氏は、「ドイツが預けた金ではなく、同じ連銀内で保管されていた米国財務省のコインバーだったからだろう」と推理しています。つまり、ドイツが預けた金塊はすり替えられた可能性があるということです。

 オランダは請求後まもなく高純度の金塊を取り戻したのに、なぜドイツへの返還は、時間がかかり、量も少なかったのか。このことについて、2022年3月18日付けの朝日新聞に興味深い記事が掲載されました。日本は1970年代に外貨準備のドル資産の一部を金に変えようと計画したが、米国の財務次官から「日本はドルを手放すのか。私が生きているうちは金の買い増しを許さない」と脅され、金購入を断念した、というのです。

 ドイツも日本も、第2次大戦の敗戦国でありながら、経済大国にのし上がりました。連合国側で戦勝国のオランダとは、そこが違います。基軸通貨のドルで世界経済の支配を続けたい米国は「つけ上がるなよ」と威圧したのではないか。政府や中央銀行が金塊を移動したり、買い増したりするときは、「政治」が介入するのかもしれません。これは私の勝手な推測ですが。(画像はNY連銀HPから、サイト管理人・清水建宇)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です