「金」の眼鏡で見た おカネの風景

トランプ氏は「金」をどう見ているか?

 米国の大統領選挙は、共和党のトランプ氏が勝ちました。米国の新聞やテレビは世論調査に基づいて「接戦」「横一線」と報道してきましたが、獲得した選挙人の数では約70もの大差がつきました。「圧勝」と言えるでしょう。前回の記事で「賭けサイト」でトランプ氏がハリス氏との差を広げつつあるグラフを紹介しましたが、賭けサイトが正しかったようです。

 上院も共和党が過半数を押さえ、下院でも優勢なので、トランプ政権は議会も味方につけることになるでしょう。そうなると、トランプ氏や側近が「金」をどう見ているかが気になります。

 日経新聞が「金本位制、高値の裏でうごめく復活論、トランプ派が主張」という見出しで大きな記事を載せたのは、今年7月でした。

 例えば共和党系のシンクタンクであるヘリテージ財団は、次期政権に向けた政策課題「プロジェクト2025」のなかで、「金本位制への回帰の実現可能性を検討すべきだ」と明記しました。

 米国の金本位制は1971年にニクソン大統領によって廃止されましたが、第一次トランプ政権で首席戦略官だったスティーブ・バノン氏は「(ニクソンの決定も)ただの大統領令だった。次期政権で強く見直す」と、連邦議会を通さずに金本位制を復活させる可能性を語りました。

 トランプ氏がかつて米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度)の理事に指名した経済顧問のジュディ・シェルトンさんも「金本位制の米ドルを国際金融の基軸に据えた1944年のブレトンウッズ会議を、もう一度開きましょう」と公言しています。

 トランプ氏自身は金本位制の熱烈な支持者ではありません。しかし、本来「小さな政府」をめざしてきた共和党は、金本位制の足かせがなくなったFRBが米国債を大量に購入してドルを印刷しまくり、政府を肥大化して金融危機やインフレを引き起こしたと批判しています。金本位制の下ではドルを自由に増やすことはできず、FRBは足かせをはめられるので、FRBの独立性を崩したいトランプ氏は、目標を共有することになります。

 しかし、金本位制へのハードルは高く、実現の見通しはあまりありません。それでも軽視できないのは、米国の政府債務残高が急激に増えているからであり、パウエルFRB議長も「財政は持続不能」と断言していると、記事は結んでいます。

 一方、デジタル・ゴールドなどと呼ばれることもあるビットコインに対しては、トランプ氏は実に好意的です。ブルームバーグによると、トランプ氏は9月、ニューヨークにあるバーを訪れ、ハンバーガーを数十個買って店の客にふるまい、支払いはアプリで約1000ドル分のビットコインを入手して済ませました。

 7月には暗号通貨の集会に登壇し、①ビットコインを外貨準備の資産にすることを検討する、②米国をビットコインのマイニング(採掘)と保有において世界最大の国にする、③暗号通貨取引の規制を強化しようとする政府の担当者を解任する、などと述べました。

 暗号通貨業界の人たちは、この集会でトランプ氏が「ステーブルコイン」に言及したことに注目しました。これは法定通貨や金などの資産価格と連動するように設計された暗号通貨です。トランプ氏は、FRBが発行するデジタル通貨の研究を中止させ、民間が発行する米ドル資産のステーブルコインの普及を進めると発言しました。

 トランプ氏が4年前にFRB理事に推薦した前出のジュディ・シェルトンさんは、「金を裏付け資産とするステーブルコイン」を提案しています。また、新著では金と連動する特別な国債の発行も提案しています。この国債は額面の金利は低いが、満期を迎えると保有者は発行時に指定された金の量の相当額を受け取ることを選べます。

 これらが実現すると、印刷物に過ぎない法定通貨のドルと、金の価値を持つ暗号通貨や国債がが並存することになるでしょう。(写真はCryptonews、サイト管理人・清水建宇)

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