「金」の眼鏡で見た おカネの風景

金価格が上がっても金の供給は増えない

 金の価格は先週も上昇を続け、ニューヨーク先物市場も、ロンドンの現物市場も、1オンス(約31g)=3100ドルすれすれまで上がりました。「3000ドルを突破した」と世界が注目したのは、つい2週間前ですから、上昇速度の早さに驚きます。

 米国の財務長官を何人も輩出してきた名門金融機関のゴールドマンサックスは3月27日、「2025年中に金価格は1オンス4500ドルになる」という予測を公表しました。現在の1.5倍という大胆な予測ですが、突拍子もない暴論とは思えません。

 しかし、「価格が上がれば供給が増えるので均衡点で安定する」というのが、経済学の初歩で学ぶ原理です。一方的に上がり続けるはずはないのに、なぜ金は上昇を続けるのか。その理由は「金の供給は増やせない」ことにあります。

 人類が金と出会ってから今日までの6000年間で、生産された金は計21万トンと言われています。オリンピックの公式競技用プールで4杯分の量です。

 金は錆びることなく、他の物質に変わることもなく、いつまでも輝きを失いません。昔から貴重なものと認識されてきたので、宝飾品や金塊などに形を変えてもたいせつに扱われ、これまでに生産された金の90%以上は、現在も所在が把握されているそうです。言い換えると、紛失や略奪などで消えた金は、この数千年でせいぜい10%、2万トン以下だということです。

 判明している金の埋蔵量は計約5万トンです。いまある金鉱山のそれぞれの埋蔵量を集計した数字です。これは現在の技術で、コストに見合う価格で採掘可能な量を意味しています。現在の金の生産量は年間3200トンほどですから、このペースで採掘すると16年で掘りつくすことになります。

 埋蔵量を増やすには、地質調査を繰り返して新しい金の鉱脈を発見し、坑道を掘ったり、表土をはがして露天掘りができるようにするなど、巨額の投資をして鉱山を開かねばなりません。それには鉱脈の発見から10~15年もかかります。

 しかも、欧米の中央銀行や金取引業界が長い間、金の価格を押し下げてきたために、金鉱山会社の経営は苦境が続き、新しい鉱脈の探査や新鉱山の開発に投資できない情況が続いてきました。だから有望な新しい金鉱山の開発は当分望めないのです。

 「いつも感謝している高齢者の独り言」という有料ブログは、金に関するさまざまな情報を毎日発信し、筆者は日本で最も金に詳しい人だと思います。私は10年以上、このブログを愛読してきました。「高齢者」氏は金の供給見通しを探るために、鉱山大手シバニエ・スティルウォーター社が南アフリカ共和国に持つ5つの金鉱山の財務状況を定点観測してきました。

 最新の分析は昨年1~3月の第1四半期の数字です。金価格が1オンス=2200ドルに迫り、金の値上がりが話題になり始めた時期です。それでも、5つの鉱山のうち坑道で採掘する3鉱山は損益分岐点が高いため赤字でした。鉱滓から金を抽出する2カ所のボタ山も利益はありません。全体で見ても損失が7%に達し、算出量は前年同期の6.2トンから20%減りました。

 つまり、金価格が上昇し始めた時期だったのに、同社のアフリカの鉱山では逆に金の生産が減ったのです。「金価格が1オンス=2600ドルになれば閉鎖した坑道の再開に踏み切るかもしれないが、坑道の安全を確認しなければならず、採掘を始めるまでに時間がかかるだろう」――高齢者氏はこう予測しています。

 南アフリカ共和国の金鉱山は1970年には1000トンの金を算出し、世界最大の金生産国でした。その後、鉱山の老朽化や鉱石の品位低下、投資不足などで衰退し、今では産出量が最盛期の10分の1の年間100トンほどに落ち込んでいます。金の埋蔵量は現在も世界で2番目に多く、重要な供給源ですが、金の生産量が増える見通しはまだありません。

 残念なことに「高齢者」氏のブログは昨年夏から休載となり、今年の定点観測を読むことはできません。しかし、おそらく見通しは暗いままと思われます。

 アジアやカリブ海の島国でも金鉱山が開発されてきましたが、世界の産出量は年間3000トン余りで頭打ちになっています。新しい鉱山の開発は難しいため、大手は中小の鉱業会社を買収して既存の鉱山を傘下におさめようと、競い合っています。しかし、鉱山の経営者が変わるだけで、鉱山そのものが増えるわけではありません。

 金は携帯電話などの電子機器にも使われており、廃棄された機器から金を取り出すことができます。使用済みのスマホを「都市鉱山」と名付け、回収とレアメタルの抽出を計画している企業も登場しました。しかし、1台のスマホから抽出できる金は、わずか0.02gにすぎません。1gの金を得るには50台、1kgの金なら5万台、1トンの金なら5000万台のスマホが必要です。

 しかし、大量の使用済みスマホを回収するルートを確立し、効率よく金やレアメタルを抽出できるようになるのは、当分先のことです。

 地上に存在する現物の金を世界の人口で割ると、一人当たり約30gです。この数字は、当分の間、変わらないでしょう。需要が増えれば、価格が上がるしかないのです。(写真は世界文化遺産に登録された佐渡金山の坑道、図表はZerohedge、サイト管理人・清水建宇)

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