「金」の眼鏡で見た おカネの風景

米国の金保管庫に金はあるのか

 米国が保有している金塊は、世界金評議会(WGC)によると8,134トンです。2位のドイツの2.3倍。ダントツで世界一です。ちなみに日本の約10倍です。

 米財務省によると、その6割はケンタッキー州フォートノックスに、2割はニューヨーク州ウエストポイントの金保管庫にあります。どちらも米軍の施設があります。残りは米国造幣局などに分散して保管されています。

 フォートノックスの金保管庫は、鉄条網に囲まれた建物の地下に埋め込まれ、鋼鉄製のドアの厚さは53cm、重さは20トン。1943年に訪問したF・ローズベルト大統領の後、歴代の大統領はだれも入ったことがありません。

 ところが、ひょんなことからトランプ大統領が「金保管庫の中を見る」と言い出して、金の関係業界を驚かせました。発端は、金監視団体がイーロン・マスク氏に「金の保管庫を調べるべきですよ」と呼びかけたことでした。マスク氏は「金はあるはずだが・・」と応じながらも、トランプ氏に伝えました。

 こうした動きに対して、金保管庫を所管する米財務省のベッセント新長官は「私はフォートノックスを訪問する予定はない」「金はすべてそこにある。上院議員ならだれでも訪問して中をみることができる」と述べ、火消しに努めました。

 しかし、マイク・リー上院議員(共和党)は「私は何度もフォートノックスに入ろうと試みてきました」と述べ、現地の警備担当とのやりとりをSNSに投稿しました。
 警備担当:あなたはフォートノックスに入れません。軍事施設だからです。
 リー議員:でも、私は上院議員で、軍事施設にはよく行きます。
 警備担当:それでも入れません。入れないからです。

 2月21日、トランプ大統領は米国の保有金塊を確認するためにフォートノックスを訪問すると発表しました。「金がそこになければ、私は動揺するだろう」とも語りました。この発表は、すぐ金融業界に衝撃を与えました。そこに金があるかどうかをめぐって、疑問視する声が高まっていたからです。

 疑問の根拠は、正式な監査が50年以上行われていないことです。米財務省は「監査をしてきた」としていますが、米国政府機関による調査であって、独立した監査人が調べたのではありません。しかも量が多いために何年もかけての継続監査となり、途中で監査のガイドラインを変えたため、1700トンの監査をやり直すなど、混乱しました。

 継続監査では13冊の年次監査報告書が作成されたはずですが、このうち7冊が欠落しており、財務省も国立公文書館も提出できません。重要書類の紛失は、うっかりなのか故意なのか、はっきりしません。

 もう一つの疑問の根拠は、保管されていた金塊の純度が低いことです。有名な金研究者のロナン・マンリー氏によると、2011年6月に米国下院金融委員会が公聴会に提出した資料に、金塊の純度ごとの明細が含まれていました。これによると、保有金の8割は純度が91.7%以下でした。しかも、1本が400オンス(約12.5kg)に満たない小さな金塊がたくさん含まれていました。

 これらは、大恐慌の時期にF・ローズベルト政権が国民から没収した金貨や金の宝飾品などを溶かしてつくった「コインバー」だからです。

 しかし、世界の金市場で流通するには、「純度99.5%以上」で認定業者の刻印、重量、シリアルナンバーが打たれた「グッドデリバリーバー」であることが必要です。重量は400オンスが一般的です。ということは、米国の保管庫にたくさんあるコインバーは規格外で、いざというときに金市場に出せません。「準備資産」としては落第でしょう。

 コインバーを精錬し直し、99.5%以上の純度に高めるにはスイスや中近東、中国などの金精錬所に頼むしかなく、米国や英国にはその能力がありません。

 奇妙なことに、第一次トランプ政権のムニューシン財務長官は2017年8月21日、事前の発表なしにフォートノックスを訪れているのです。財務長官の訪問は歴史上3人目で、本来ならビッグニュースとして報道陣が詰めかけたでしょう。

 しかし、ムニューシン長官は13ある金庫室のうち一つを見ただけで引き揚げ、ツイッターで「金が安全でよかった」と発信し続けました。なぜ突然の訪問をしたか、金庫室の中はどうなっていたか、長官はボスのトランプ大統領には詳しく説明したはずです。

 今回のトランプ大統領のフォートノックス訪問は、ムニューシン長官の訪問と関係があるのではないかと、私は疑ってしまいます。いずれにせよ、ニューズウィーク誌が「公式のデータと現実に相違があれば、国際市場で激しい反応を引き起こす可能性がある」と警告しているように、その結果は注目されるでしょう。

 ところで、ニューヨーク連邦準備銀行の地下にも巨大な金保管庫があり、6200トンの金が眠っています。世界の中央銀行から預かった金です。こちらにも「本当にあるのか」という疑問が絶えません。この問題は次号で書きます(画像はiStock サイト管理人・清水建宇)

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