「金」の眼鏡で見た おカネの風景

投資の神様バフェットさんは「金が大嫌い」ですが・・

 投資に関心のある人なら、ウォーレン・バフェットさんの名前を知っているでしょう。世界最大の投資持株会社であるバークシャー・ハサウェイ社の筆頭株主であり、個人としても世界有数の資産家です。94歳になった今も経営の第一線に立ち続けています。

 米国中西部のネブラスカ州にあるオマハ市に会社と自宅があり、66年前に3万1500ドル(約500万円)で買った郊外の小さな住宅に今も住んでいます。大恐慌の時代に生まれ、11歳で株式を買ったバフェットさんは、80年余の投資体験で培った洞察力と堅実な手法で成功を重ね、「オマハの賢人」と呼ばれてきました。

 そのバフェットさんは「金が大嫌い」なことで有名です。数々の語録があります。

「金は輝くだけで、有用性はない。アフリカやそこらで地面を掘って、溶かして、を繰り返しているだけだ」「人々が恐怖を抱くようになれば儲かり、恐怖が薄れれば損をするが、金自体は何も生み出すことはない」

「金価格が上昇することはあっても、この魔法の金属はアメリカ人の気質に合わない(no match for the American mettle)」「金には金利がつかず、配当もないので、投資する意味はない」

 そのバフェットさんは、新型コロナウイルスの感染が広がった2020年、大手銀行の株を売って得た56億ドルを投じて、カナダに本社を置く大手金鉱山会社バリック・ゴールドの株式2090万株を取得しました。世界中の投資家がびっくりしました。当時のバリック・ゴールド株の配当利回りは1.2%しかなかったので、配当を狙ったとは思えません。

 コロナ禍で予想される金融混乱に備えて「金」に準じる金鉱山株を買ったのではないか。いや金鉱山株も株式だから、これまでの投資スタイルを変えたわけではない。――真意がどこにあるのか、いろんな見方が報道されました。しかし、バフェットさんは半年後にこの株を売り払い、騒ぎは収まりました。

 以来、バフェットさんは「金」に近づこうとせず、株式投資の有効性、「複利」の優位性に確信を持って投資を続けてきました。ところが今年、異変が置きました。バフェットさんが率いるバークシャー・ハサウェイ社は大量の保有株を売り払い、新規の株式投資は手控えて、手元の現金を急速に積み上げたのです。下のグラフを見てください。

 左端の2010年以降、手元に置く現金と、すぐ現金に換えられる短期国債の合計額ははゆるやかに変動してきましたが、今年の第一四半期からわずか9カ月で1.9倍に増やしたのです。売却した株の中には、バフェットさんが「宝もの」と呼んでいたアップル株も含まれていました。2016年に取得した時から10倍近く値上がりし、同社に多額の利益をもたらした銘柄ですが、保有株の半分近くを手離しました。長期保有していたバンク・オブ・アメリカ株も4分の1を売りました。

 新規投資はほとんどありません。ロイター通信によると11月14日に提出された報告書でドミノ・ピザ株とプール用品のプール株を取得しましたが、計6億ドルで、ささやかな投資です。

 手元に積み上げた現金と短期国債などは計3250億ドル、約50兆円という巨額に達しています。この手元資金は、株式市場が大暴落すれば、ただちに買い向かう「軍資金」になるのでしょう。

 「バフェット指数」と呼ばれる数字があります。「株式市場の時価総額÷その国のGDP×100」で、つまり「株式市場の時価総額」が「米国の国内総生産」の何倍に当たるかをパーセントで示したものです。バフェットさんが投資する際に重視したので、この名があります。

 2001年の「ITバブル崩壊」のときも、2008年の「リーマンショック」のときも、この数字が100を超えて上昇し、ピークを迎えた後で起きました。株式市場の崩壊が近づいていることを示す「赤信号」だと言われています。このバフェット指数は上昇を続け、12月20日現在、なんと200に達しました。目がくらむような高さです。これが暴落のシグナルだとすれば、次の下げ幅は過去2回よりもずっと大きくなるのではないでしょうか。

 バフェットさんの信条を示す語録があります。「他の人が貪欲になっている時は臆病であれ。他の人が臆病になっているときは貪欲であれ(Be feaful when others are greedy,and be greedy when others are feaful)。バフェットさんは「今は臆病であれ(Be fearful)」と判断しているのでしょう。(グラフはZero Hedge、サイト管理人・清水建宇) 

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