巨人の槇原投手が完全試合
1994年5月18日、巨人の槙原寛己投手は、福岡ドームで行われた広島東洋カープとの対戦で、完全試合を成し遂げた。投球数は102。日本プロ野球では今井雄太郎(阪急ブレーブス)以来16年ぶり、史上15人目。人工芝グラウンド、並びにドーム球場での初の完全試合となった。
この対戦は、巨人軍にとって球団創設以来通算7000試合目だった。最後の打者の一邪飛が捕球されると、槇原投手はマウンドで両手を上げ、飛び上がった。長嶋監督はあえて槙原に言葉をかけず、静かに戦況を見守り、そして完全試合を記録した槙原をベンチ前で抱擁して迎えた。
◆いま◆ 槇原の後の完全試合は、2022年4月10日に千葉マリンスタジアムで佐々木朗希(千葉ロッテマリーンズ)がオリックス・バファローズ戦で成し遂げた。史上16人目の完全試合投手が出るまでに、28年も要した。
30年前を描いたドラマ
最近、話題になった連続TVドラマ『不適切にもほどがある』(宮藤官九郎・脚本)は。いわゆるタイムスリップものだ。
1話の概略はこうだ。東京の中学校の体育教師で野球部顧問の小川市郎は、スパルタ教育と荒々しい言動が特徴。私生活では妻に先立たれ、17歳の高校2年生のちょっとヤンキーな娘と暮らすシングルファーザーである。
そんな彼が1986年のある日、学校からの帰りに乗った路線バスが、38年後の2024年にタイムスリップしてしまう。
行きつけの喫茶店のトイレの壁が謎の空洞になっていて、そこを通るとなぜか1986年へ戻ることができた。
とりあえず2024年の世界で生きていかなければならなくなった市郎。彼の言動は令和の世界ではコンプライアンスにひっかかるような「不適切」なものばかり。だがそれらは、「本当に大切なことは何なのか」を令和の人々へ問いかけていくことにもなる。
この辺りを説教臭くならないように宮藤官九郎はミュージカル仕立てで、登場人物たちに歌でそれぞれの屈折した思いを語らせる。(クドカンさすがだ!)
何話目かに、2024年を生きる市郎は、自分とともに娘・純子が、1986年の9年後、即ち1995年に発生する阪神・淡路大震災に巻き込まれて命を落とすという未来を知る。この辺りから、「不適切」の切り取り軸に、運命を見てしまった父親の悲哀の軸が交差する。・・・細かいところはT-VERかネットフリックスかで見てもらうほかないが、最近のTVドラマとしては面白いものだった。
「タイムスリップ問題」を哲学的に突き詰めたのが「親殺しのパラドックス」だ。
自分の存在に嫌気がさし、自殺するのではなく存在を抹殺する方法として、タイムマシンを利用して過去の世界に戻り、自分の父親となる人物を、母親と出会う前に殺してしまったら自分は生まれてこないはず。しかし、父親を殺すと自分が生まれてこないため、いまタイムマシンを使って過去へタイムトラベルをしているのはだれ?ということになる。一方、自分が存在しなければ父親は殺されず、父親は母親と出会って自分が生まれ、その自分がこうしてタイムトラベルをして父親殺しに向かっている。これは論理的に矛盾する。(祖父殺しのパラドックスともいう。)