「金」の眼鏡で見た おカネの風景

中国では1gの金豆が爆売れ、韓国では自販機でも

 先週の記事で、米国で金地金の販売が急増していることを書きましたが、アジアでも若い世代を中心に「金地金ブーム」が広がっています。

 ロイター通信が23年11月に配信した記事によると、中国ではネットのソーシャル・メディアで「金の現物」についての書き込みが急増し、とりわけ1gほどの小さな「金豆」がもてはやされています。1個500元(約1万円)で買える手軽さが人気の理由です。

 大手貴金属店によると、純金製品の購入者はこれまで高齢世代が主体でしたが、最近の調査では、40歳以下が購入者の70%を占めました。「18~24歳の若者が金を買い始めたことにも驚いている。初めてだ」と店の責任者は話しました。

 金はとても重い金属なので、1gの地金はエンドウ豆と同じくらいの大きさです。中国での報道によると、生活費を節約して毎月1個ずつ買う若者が急増し、ガラス瓶などに入れて金が増えるのをながめるのだそうです。文字通り「貯金箱」です。

 金の専門家は「中国の旺盛な需要が世界の金価格を押し上げている」と見ています。中国の金現物は、ロンドンなどの価格に上乗せした値段で取り引きされており、その上乗せ価格(プレミアム)は昨年9月に過去最高の1オンスあたり121ドルを記録したそうです。欧米より高い値段で取り引きされるので、世界中の金地金が中国に引き寄せられています。

 韓国でもブームです。米国CNBCは5月7日、「韓国のコンビニや自販機で金の現物が飛ぶように売れている」というニュースを報じました。韓国で1万4000店舗を展開する最大のコンビニチェ―ン「CU」が、4月から小さな金地金を店頭で売り出したところ、客が押し寄せ、1gの金は2日間で売り切れたそうです。

 販売を始めたのは韓国造幣局の協力でつくった小さな地金。0.5gの価格が7万7000ウオン(約8400円)で、国際価格よりも割高です。それでも需要は衰えません。CUの調査によると、金を買った客で最も多かったのは30代で、41%を占めました。20代も7%で、若い人たちが半分近くにのぼります。

 CUと首位を争うコンビニチェーンの「GS25」も地金販売に力を入れています。主力は韓国らしく1匁(もんめ、3.75g)の地金。同社は22年秋に自動販売機で小さな金の試験販売を始め、現在は32の支店に自販機を置いています。自販機での累計販売額は35億ウオンを超えたといいます。

 また、1000万人のユーザーを抱えるオンライン銀行のKBANKは、5月9日から送料無料で金地金の販売を始めました。37.5グラム以下の小さな地金です。同社は「金への投資が大人気なので」と説明しました。

 国際的な金業界の団体「ワールド・ゴールド・カウンシル」によると、今年1~3月の韓国における金需要は前年同期に比べて27%も多い計5トンに達しました。前例のない増加率です。

 中国と韓国には共通点があります。中国では不動産会社の破綻が相次ぎ、売れないマンションが全国にあふれて、価格下落が止まりません。以前は、マンションを買うことが資産づくりの早道だと思われていましたが、今では買うと損をするので、だれも欲しがりません。不動産不況で中国経済は落ち込み、若者は就職できずに苦しんでいます。

 韓国では財閥主導の一部の大企業だけが経済を引っ張るゆがんだ構造のままです。子どもを大企業に就職させるため名門大学への受験競争が激化し、多くの家庭が教育費に押しつぶされてきました。落伍者が明るい将来を思い描くことは容易でありません。結婚も、子育ても、マイホームもあきらめた若者が大勢います。

 一人の女性が生涯に産む子どもの数を示す韓国の「合計特殊出生率」は、先進国の中で唯一「1.0」を割り込み、8年連続で下がり続け、23年は「0.72」になりました。50年後には人口が半減する恐れがあります。

 金地金を求める若者たちの背景に、社会への怒り、将来への不安、出口が見えない閉塞感があるように思います。(写真は「中国の声」、韓国中央日報から、サイト管理人・清水建宇)

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