「金」の眼鏡で見た おカネの風景

ベトナムで金買いブーム、中央銀行が金を放出

 ベトナムは約1億人の人口を擁する大きな国です。ベトナム戦争が終わった後、南北が統一され、1986年には「ドイモイ(刷新)」を掲げて市場経済を導入しました。私有財産を認め、米国とも国交を回復し、共産党の一党支配の下で工業化を進めてきました。

 世界最大の電子機器メーカーである韓国のサムスン電子が4つの製造拠点を置くなど、先端産業の輸出が伸びており、今年1~3月の経済成長率は5%を超えました。

そのベトナムで、金地金を求める国民が急増し、昨年から販売価格の上昇が続いています。ベトナムでは10匁(もんめ)=37.5gの「1テール」単位が好まれていますが、この重量の金地金の値段が、5月末には92000万ドン(約3610米ドル)の高値をつけました。ロンドン市場などの国際価格と比べると1.3倍近い異様な値段です。

 ロイター通信によると、中央銀行であるベトナム国家銀行は4月12日、市場を安定させるために金地金の市中への供給を増やすと発表しました。ファム・ミン・チン首相の指示を受けた取り組みです。政府も重要な問題だと考えたのでしょう。

 ベトナム国家銀行が保有する金地金を売却し、入札が成立した4万8000枚のテール金地金を、6月3日から4つの国営商業銀行の支店で販売し始めました。業者や法人には売らず、買えるのは個人だけです。値段は市場価格より1.2%安く設定されました。


 売り出しの日、商業銀行の支店は、どこも行列ができました。現地紙によると、ある支店では開店から1時間で10人しか購入できず、待合室には50人がひしめいていました。別の支店では2時間待っても買えず、並んだままの人もいました。どの支店も在庫が足りなくなり、すぐ1人1テールに制限されました。

 1週間後、商業銀行は金の売却を再開しましたが、店頭で行列ができないようにオンラインで予約を受け付ける方式に変えました。しかし、現地報道によると、いつも受け付け開始から数分で予約枠が埋まってしまうそうです。その結果、国際価格より異様に高いベトナムの金価格は現在も高止まりしたままです。
 
 国会では多くの議員が「解決策とは言えない」と述べ、経済の専門家は、金の輸入や鋳造を規制する政令を改正して金を自由化すべきだと提言しています。

 ベトナムではまた、ビットコインなどの仮想通貨に投資する国民も急激に増えています。現地紙によると、6月5日にホーチミン市で開かれたベトナム・ブロックチェーン協会の集会で、23年7月までの1年間に1200億ドル相当の仮想通貨が流入し、保有者は2000万人となり、国民の2割を占めていると報告されました。この保有率は世界で3番目に高いそうです。

 同じ時期、海外からベトナムへの直接投資は250億ドルだったので、その5倍のおカネが仮想通貨に投じられた計算です。

 金や仮想通貨に対するこれほどの熱狂は、自国通貨「ドン」への不信感の表れです。コロナ禍が終わった後、ドンの対米ドルレートは10%下がりました。物価高は続き、5月の消費者物価上昇率は4.4%でした。通貨安とインフレが続けば、「ドン」の信認がますます揺らぎます。中央銀行が自ら保有金の放出に踏み切ったのは危機感の表れだと思います。(写真はVIETNAM.VNから、サイト管理人・清水建宇)

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