ビリー・ザ・キッドの仲間の悪だくみ――「紙の銀」
リーマン・ショックを予測したカイル・バス氏は、空売りで得た巨額の利益で大量の金塊を買い、自宅で保管しています。「現物の金でないとだめだ」と言い、泥棒から守るために銃も買いました。前号でこう書きましたが、バス氏はなぜ「現物の金」にこだわるのでしょうか。
「金投資」という言葉をGoogleで検索すると、「金先物」「金ETF(上場投資信託)」や「金投資信託」「金CFD(差金決済取引)」などの広告がたくさん出てきます。ETFやCFDは投資した金額の2~10倍の取り引きができるものもあります。共通しているのは、証券会社などにおカネを払い、証書を受け取ることです。
これらをまとめて「紙の金」として考えてみましょう。現物の金ではなく、紙証文を受け取る投資方法だからです。「紙の金」を考えると、私は米国西部の開拓時代を生きたビリー・ザ・キッドの話を思い出します。

1877年、ビリーはニューメキシコ州の酒場で知人や仲間とポーカー賭博をしました。銀貨を賭け、勝敗を紙にメモして、精算します。ポーカーが終わった後、ビリーと一緒に賭博をしていたシルビウスという商人が、銀貨を増やすアイデアを思いつきました。
シルビウスは、「銀貨と引き換えられます」と書いた400枚のチケットをつくり、それを持って65マイル離れたアルバカーキ―へ行きました。人通りが多いマーケット広場で、人びとに1枚の銀貨を見せ、「チケットを1枚買えば、この銀貨を所有できますよ」と売り込んだのです。チケットの値段は銀貨より割安だったので、よく売れました。
翌日、老婦人がシルビウスを見つけて質問しました。「私の銀貨を見せてもらえますか」。シルビウスは「もちろんです。でもチケットを持っている人が大勢いるので、順番を待たなければなりませんよ」と答えました。
老婦人は「おかしい」と思って顔をしかめ、このやり取りがすぐ広まりました。人びとはシルビウスに対して「銀貨を見せろ」と要求しました。シルビウスはだまし取ったカネをふところに入れたまま逃走しました。
もちろん、現在の金取引のシステムはシルビウスの偽チケットと違って、安全性と信頼性が幾重にも保証されています。「紙の金」の代表は「ETF(上場投資信託)」ですが、代表的な銘柄は総額820億ドル(12兆7000億円)相当の価値を持ち、1258トンの金を保有している、とされています。
ただし、「保有」というのは「中央銀行や地金銀行からの借り入れ」や「リース」を含みます。ETFを発行した会社が購入して「所有」したものは一部にすぎません。
中央銀行が金を貸し出した場合、金塊の番号と貸し出しの記録をもとに、ETFの発行会社を監査することがあります。しかし、中央銀行は監査結果を公表しないので、ETFの持ち主は、同じ番号の金塊が何度も担保に使われたかどうかを知ることはできません。
金ETFについては、さまざまな欠点が指摘されてきました。①発行会社が直接の金所有者ではない、②保有されている金は再担保に使われている恐れがある、③保有する金に保険がかけられていない、④ETFを買った人が金にアクセスできない・・
これらの問題があっても、プロの投資家はETFのような「紙の金」を選ぶでしょう。パソコンのキーをたたくだけで多額の取引を、しかも頻繁に行うことができます。1日の値動きを追って、利ザヤを得ることも簡単です。市場規模が大きく、流動性も十分にあります。
しかし、ふつうの人が、世界経済の混乱や自分の身に降りかかる異変に備えて、最後の拠りどころ、命綱として金に投資するなら、ETFを含めた「紙の金」はお勧めできません。ビリー・ザ・キッドの時代にチケットを買った老婦人のように、「私の金を見せてください」と頼んでも、けっして見せてはもらえないからです。(写真はMoney metal、サイト管理人・清水建宇)