「金」の眼鏡で見た おカネの風景

ビットコインは米国の公的準備資産になるか?

 メキシコの少し南にあるエルサルバドルは2021年、世界で初めてビットコインを国の法定通貨にしました。自国の通貨はなく、米ドルとビットコインだけが使われています。

 四国とほぼ同じ広さで、南北米州大陸で最も小さい国。約650万人が住んでおり、人口密度は米州大陸で最高です。コーヒー、砂糖、綿花が主要産業で、米国などで働く国民からの送金がGDP(国内総生産)の2割を占めています。

 しかし、70%の国民は銀行口座を持つことができず、金融サービスを利用できる人はわずかでした。ビットコインが法定通貨になったことで、多くの人が送金や取り引きの決済ができるようになりました。

 NHKは今年3月、「”ビットコインの国”エルサルバドルは今」を放送しました。人びとはQRコードとスマホで買い物の支払いをします。ビットコイン専用のATMが国内の250か所に設置され、金融サービスを受けることができます。

 エルサルバドル政府は3年前にビットコインを法定通貨と決めた後、価格が安くなった時期に買い集め、現在は約6000個(約6億ドル相当)を保有しています。米国大統領選挙で仮想通貨を支持するトランプ氏が当選した後、ビットコインが5割近く急騰したため、含み益が1億ドルを超えました。小さな国にとっては大金です。

 国際通貨基金(IMF)は「ビットコインは価格変動が大きく、経済にとってリスクになる」として、法定通貨として使わないようエルサルバドル政府に求めてきました。しかし、値上がり傾向が続いているので、政府は強気です。ビットコインで裏付けられた国債を発行し、建設事業の財源にする計画を進めています。

 トランプ氏の当選後、欧米の投資家の行動が変わりました。米国のビットコイン上場投資信託(ETF)は、11月21日に初めて純資産が1000億ドルを突破しました。いまや金ETFと肩を並べる水準です。

 投資の世界だけではありません。米国ではビットコインを公的な準備資産に加えようとする動きが強まっています。11月14日、ペンシルバニア州議会下院に「ビットコイン戦略準備法案」が提出されました。「インフレ対策や準備資産の多様化を進めるため、70億ドルの州資金のうち最大10%をビットコインに割り当てる」という内容です。10%でもエルサルバドルの国有資産を上回ります。

 連邦政府レベルでも、共和党のルミス上院議員が「米国政府が今後5年間で100万ビットコインを購入し、少なくとも20年間、準備資産として備蓄する」ことを義務付ける法案を提出しました。100万ビットコインはエルサルバドルの国有資産の160倍です。

 12月10日、ブルームバーグ論説委員室はこの法案に対して「史上最大の詐欺となる恐れがある」と、きわめて強い調子で反対する社説を発表しました。

「ビットコインは純粋な投機の手段だ。その価格は、より愚かな者が支払ってもよいと思う金額によって決まる。(この法案が通れば)政府は”より愚かな者”の役割を演じることになるだろう。そのコストは数千億ドルに上るだろう」

「納税者にとっての結末は悲惨なものになる可能性がある。もしトランプ氏が仮想通貨のカジノを始めたいのなら。そうすればいい。しかし、仮想通貨に起きることは、仮想通貨の領域内にとどめるべきだ」

 ビットコイン狂騒曲は、来年も続きそうです。(写真はNHK,、グラフはBTC-ARCHIVE、サイト管理人・清水建宇) 

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