ビットコインにリスクはあるか
仮想通貨の代表であるビットコインの急騰ぶりが話題になっています。米国大統領選挙の直前は1050万円前後でしたが、トランプ氏が勝利してから上昇し始め、11月30日は1445万円の値をつけました。3週間ほどで36%も上がった計算です。
トランプ氏は1期目の2019年には「自分はビットコインやその他の仮想通貨のファンではない。価格の変動が非常に激しく、空気のような根拠しかない」「仮想通貨は麻薬の密輸など違法な活動などの犯罪を助けるだけだ」と述べ、否定的でした。
ところが、今回の大統領選挙で豹変し、「民主党の違法で非アメリカ的な仮想通貨抑圧を終わらせる」「ビットコインのマイニングを行う権利を擁護する」「米国をビットコイン大国にする」などと主張してきました。そのトランプ氏が当選したので、取り引きが急増したのです。
通貨の発行は国家の重要な主権です。米ドル、ユーロ、円などの法定通貨は「国の中央銀行」が発行します。しかし、ビットコインなどの仮想通貨は「ブロックチェーン(分散型台帳)」を使って取り引きの参加者が管理し合い、国家は関与しません。金も国がつくったものではないので、国の関与はなく、ビットコインは「デジタルゴールド」と呼ばれることがあります。
では、ビットコインは金と同等の安全な資産なのか。まず、その歴史を振り返りましょう。
2008年10月、「サトシ・ナカモト」という仮名のプログラマーが論文をネット上で明らかにし、ビットコインを発表しました。ネットで接続しているコンピューター同士(ピア・ツー・ピア)でやりとりできる世界で初めての仮想通貨です。
この少し前、リーマンショックで世界の株式市場が暴落し、米国政府は倒産の危機にあった金融機関を救うために巨額の税金を投じました。「ナカモト」氏はビットコインをつくった目的について「金融システムは腐敗している。政府の管理が及ばないシステムをつくり、世界中の誰に対しても匿名のまま無料で支払いができるようにしたい」と書きました。
ビットコインは、ドルや円のような中央集権システムではなく、取り引きの記録をネット上に分散して記録し、参加者がチェックできる技術に基づいています。コインの数は2100万個と定められ、上限があります。
最初の取引は2010年でした。フロリダに住むハニエツ氏が「ピザ2枚を自宅に届けてくれた人に1万ビットコインを支払う」とネット上で約束し、英国人が25ドルでピザを配達させました。ハニエツ氏は英国人のウォレット(コンピューター上の財布)に1万ビットコインを振り込みました。このとき、1ビットコインは0.4円相当だったわけです。
それが14年後の今では1400万円を超えていますから、3500万倍に上昇した計算です。一攫千金を夢見る人たちが群がったのも無理はありません。
しかし、ビットコインは盗難事件が何度も報道されてきました。ネットワーク上のデータなので、ハッカーに狙われやすいのです。今年5月30日、日本の暗号通貨交換業者のDMMビットコインは「482億円相当のビットコインが不正に外部へ流出した」と発表しました。きわめて多額の盗難なので、この発表はすぐ世界中で報じられました。
流出したビットコインはどうなったのでしょう。著名なプログラマーである中島聡さんがこの事件をブログで解説しているので、以下に引用します。中島さんは米マイクロソフト社でWindows95の開発に携わった人です。
ビットコインはすべての取り引きがオープンなかたちで記録されるので、中島さんはDMM社のウォレット(財布)のアドレスを入力し、事件当日の出入りを調べました。すると5月30日午後8時40分に4503個のビットコインが別のウォレット「1B6rJRfjTXwEy36SCs5zofGMmdv2kdZw7P」に移されていました。
移動先を調べると、事件の数分後に別の複数のウォレットに約500個ずつ移されていました。警察はそれぞれのウォレットを監視していますが、再移動はパソコンのキーを叩くだけで簡単にできます。しかも、移動先のアドレスが分かっても、「その所有者を特定することがきわめて難しい」のです。この事件はいまも解決していません。
過去には北朝鮮系のハッカーによる仮想通貨の窃盗事件がたびたび報じられました。米国に本拠を置いてブロックチェーンを分析しているチェイナリシス社は昨年2月、「北朝鮮の支援を受けたハッカー集団は2022年に計17億ドル(約2200億円)相当の仮想通貨を盗んだ」と報告しました。その1年間に世界で盗まれた暗号通貨は38億ドル相当で、その44%は北朝鮮が絡んでいたといいます。
彼らは通常、盗んださまざまな暗号通貨を混ぜ合わせる「ミキサー」という技術で捜査当局の追跡をかわし、資金洗浄をします。報告は「北朝鮮の輸出総額が1億9000万ドル程度であることを考えると、仮想通貨の窃盗が北朝鮮経済のかなりの部分を占めていると言っても過言ではない」と結んでいます。
ここまで読んで、あなたはビットコインのリスクをどのように考えますか。
たしかにビットコインは2100万個という発行上限があるので、資源量の制約がある金地金と同様に希少価値があると言えるでしょう。しかし、金には実体があり、「おカネ」であると同時に、宝飾品や電子産業資材などに使われる「商品」の価値も持っています。一方のビットコインはネット上の「記号と数字を組み合わせたデータ」にすぎません。
ネットは通信技術によって支えられており、通信網はどの国でも厳しい管理下に置かれています。ハッカーによって盗まれる恐れがあるだけでなく、ネット通信は核爆発や太陽フレアで混乱することがあり、最近のウィンドウズの混乱で明らかになったように基幹ソフトの不具合で止まることもあります。
そう考えると、ビットコインには無視できないリスクがあると言わざるを得ません。金地金も盗まれる可能性はゼロではありませんが、少なくとも北朝鮮のハッカー集団がコンピューターを必死に操作しても1gも盗むことはできないのです。(画像はFREEPICから、金貨に似たイメージが多いが、実際は記号に過ぎない サイト管理人・清水建宇)