「金」の眼鏡で見た おカネの風景

トランプ関税で金塊が米国へ大移動

 いま、英国とスイスなどから大量の金塊が米国へ流れ込んでいます。ロンドンには金の現物取引の中心であるLBMA(ロンドン貴金属市場協会)があり、スイスには世界の4大貴金属精錬所が集まっています。この両者から米国へ金が大移動しているのです。

 ロンドンから運ばれる金塊は、主に400オンス(12.4kg)もしくは1000オンス(31.1kg)で、純度99.5%以上の認証された大型バーです。アジアではkg単位の取り引きが好まれるため、スイスでは大型バーを純度99.99%のkg単位のバーに精錬し直し、ロンドンや米国などに輸出してきました。現在はロンドンに送られた金の多くも、米国へ向かっています。

 最近まで、米国はロンドンとスイスに金を輸出していました。ところが昨年12月ごろから流れが逆転し、米国へ輸出されるようになりました。米国大統領選に勝利したトランプ氏がしきりに「関税」を口にし始めたことがきっかけです。

 ニューヨークの先物市場COMEXで金を「空売り」している投資家は、満期を迎えた時点で現物の地金を引き渡すリスクを負っています。その地金が関税で値上がりすれば、リスクはさらに膨らみます。そこで、投資家らは関税がかかるまえに現物の金地金を米国へ運び、ニューヨークの「認証在庫」に確保しておきたいのです。

 トランプ氏は大統領に就任してまもない2月1日、「カナダとメキシコからの輸入品に25%の追加関税を課す。2月4日に発効する」と発表しました。この大統領令には「貴金属を免除する」という文言がなく、ロンドンやスイスからの金輸入に拍車がかかりました。

 カナダとメキシコは、米国が輸入する金の3分の1以上を供給しており、これに25%の関税がかかると、現在1オンス=2900ドルの金価格は3600ドルを超えてしまう計算です。米国を迂回してロンドン、スイスへ輸出するにしても、供給ルートの混乱は避けられません。

 トランプ大統領は2月3日、「関税の発効を1か月延期する」と発表しました。しかし、金の大移動は止まりません。1カ月後には関税がかかるようになる恐れが大きいからです。フィナンシャル・タイムズ紙は「ロンドン市場で現物の金が不足し、通常は数日間で金塊を引き出せたのに、いまは4週間から8週間に延びた」と報じました。金の保管庫の一つであるイングランド銀行前に金を運ぶ装甲トラックが並び、クルマの渋滞が起きたという報道もありました。

 ドバイや香港からも金が運び出され、韓国では材料が不足したために造幣局が金地金の販売を中止しました。それでもニューヨーク先物市場での金需要は衰えず、ロンドン現物市場の金価格との差が広がっています。昨年11月までは価格差は1オンス(31g)当たり20ドル程度だったのに、1月末からはニューヨークとロンドンで40ドル(6000円)もの価格差が続いています。日経新聞は「金に一物二価が生じている」と報道しました。

 ニューヨークの認証在庫に保管された現物の金は、現在1000トンに達しています。大統領選挙からわずか2か月余りで80%も増えたわけです。

 金のアナリストは2つの問題点を指摘しています。一つは、先物市場では例えば100オンスの取引証書に対して100オンスの現物を割り当てているはずだから、本来なら不足は生じないはずです。あわてて金塊を集めているのは、現物の金の何倍もの証書がつくられ、取引されているからではないか。金の裏付けのない「紙の金」が大量に出回っていることは、先物市場で公然の秘密とされてきました。

 もう一つは、「関税をかけるぞ」という脅しは、米国が世界中の金現物を吸い上げるのが目的ではないか、ということです。米国は「関税」を煙幕に使って、大がかりで戦略的な「現物金の積み上げ」を開始し、ドルの強化につなげようとしているのかもしれない、という指摘です。

 第一次トランプ政権で経済顧問だったジュディ・シェルトンさんは「金を裏付け資産とするステーブルコイン(暗号通貨)」や「満期に金の相当額を受け取る金連動型国債」を提案しています。

 米国では1971年に公的に保有する金を1オンス=42.22ドルと決め、この価格を現在も変えていません。しかし、時価で再評価すれば、一気に68倍も増えます。この再評価によって、国の借金を増やさずに新しいおカネを生み出すことができる、という議論もあります。

 いずれにせよ、実現すれば、通貨の世界に大きな変動をもたらすでしょう。金の大移動と、それが行き着く先を、しっかりウオッチする必要があると思います。(画像はmoney metals、サイト管理人・清水建宇)
 

トランプ関税で金塊が米国へ大移動」への1件のフィードバック

  • このサイトに初めて来ました。さっき朝日夕刊でお懐かしいお名前が目に飛び込んで来たからです。千葉で農業の今ももっと知りたいけれど、やはり清水建宇さんやね。トランプの関税とGOLDの話、こういうのをさらっと教えてくれる。これからちょくちょくお邪魔しさせてもらいます。

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