ジェームズ・ボンドが守ってくれたのに
英国の諜報員ジェームズ・ボンドが活躍する映画「007」。第1作が上映されてから60年以上経つのに、今も新作が準備されているという長寿シリーズです。その第3作目『ゴールドフィンガー』では米国政府の金塊貯蔵庫が攻防の舞台になりました。
1964年公開の作品ですが、テレビの洋画劇場などでも繰り返し放映されたので、ご覧になった方は大勢いるでしょう。ボンドの敵となる大富豪は、ナチスが隠した大量の金塊をひそかに引き揚げ、金でロールスロイスをつくったりして密輸し、自分の倉庫に隠し持っています。

大富豪は、米国のケンタッキー州にあるフォートノックス基地の「合衆国金塊貯蔵庫」を襲う計画を立てました。ここには世界で最も多くの金塊が保管されています。この計画をつかんだボンドは、一味が金塊を盗もうとしていると考えて米国政府と対策を考えます。しかし、金塊は重いので、全部を運び出すには200台の大型トラックを使っても2週間以上かかることがわかり、実行不可能と判断して油断します。
大富豪の計画は、金塊を盗むのではなく、核物質をまき散らす「汚い爆弾」を貯蔵庫で爆発させることでした。貯蔵庫の金塊がすべて放射能で汚染されれば、搬出できなくなり、金価格が暴騰します。大富豪が持つ金塊の価値が跳ね上がるわけです。
ほんとうの計画を知ったボンドは、貯蔵庫に侵入して待ち伏せしますが、犯人グループの一味と爆弾とともに閉じ込められます。ボンドは犯人を倒し、爆弾の時限装置の解除に取り組んで、爆発の7秒前に食い止めました。
この映画を「現代のメタファー(隠れたたとえ話)」と題して「X(旧ツイッター)」に投稿した人がいます。ジュディ・シェルトンさん。1期目のトランプ政権で大統領の経済顧問を務め、2019年にはトランプ大統領からFRB(連邦制度)理事に指名されました。彼女が24年10月に投稿した文章は、以下のような内容です。
――戦後の国際通貨を規定する最も重要なルールは、米ドルを1オンス=35ドルの安定したレートで金と交換するという約束でした。この約束と引き換えに、各国の通貨はドルに対して決まった為替レートで維持されました。金と交換できる米ドルは、国際通貨を安定させる拠りどころとなり、米国や欧州などに経済成長と生産性の向上をもたらしました。
だから欧米の繁栄を喜ばない悪役たちが、この幸せな通貨制度を破壊しようと躍起になったのも不思議ではありません。悪役の大富豪は「西側諸国の経済混乱という望みがかなえられ、しかも私の金の価値は何倍にも増える。素晴らしい計画だ」といいました。
映画では、ボンドの大胆な活躍によって彼らの計画は失敗し、金と交換できるドルを中心とした「ブレトンウッズ体制」は悪に打ち勝つことができました。
しかし、国際通貨システムの防壁だった金は、『ゴールドフィンガー』の上映からわずか7年後に使用不能になりました。1971年8月15日、ニクソン大統領がドルと金を交換するという約束を停止したからです。通貨安定の時代は終わりました。
新しい「変動為替システム」は破滅的な結果をもたらしました。ドル建ての石油価格は急騰し、政府の財政赤字は爆発的に増え、インフレは根強く続き、今や金融危機と貿易紛争が地平線上に迫っています。
ジェームズ・ボンドのような有能な工作員でも解決できないような危険をはらんでいます。貿易国同士の争いが起き、保護主義の犠牲になり、地政学的な同盟が崩壊する可能性があることは歴史が証明しています。まさに悪魔的だ――。
ジュディ・シェルトンさんは「せっかくボンドが守ってくれたのに」と嘆いています。(画像はMGMから、サイト管理人・清水建宇)