「金」の眼鏡で見た おカネの風景

サクソ銀行の「とんでもない」2025年予測

 サクソ銀行はデンマークのコペンハーゲンに本社を置くネット銀行です。1992年に設立されたネット銀行の「草分け」で、欧州や中近東、日本を含むアジアの15カ国で営業しています。

 この銀行が毎年12月に発表する「Outrageos Predictions(とんでもない予測)」は、日本ではなじみが薄いですが、欧米ではいつも注目され、その予測がニュースとして報道されてきました。2025年はどうなるのか。一部をご紹介します。

(1)2期目のトランプ大統領がドルを破壊する
 トランプ新政権は輸入品に巨額の関税を課すとともに、マスク氏らの政府効率化局(DOGE)の力を借りて財政赤字を削減する。その結果、世界の貿易と金融が循環するのに必要なドルが不足し、一時的にドルが急騰する。そこで、世界中がドルに代わる手段を探しはじめ、BRICS諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国など)は金に裏付けされたオフショア人民元や、金に裏付けられたデジタルマネーで直接取り引きするようになる。欧州はますますユーロに基づいて貿易するようになる。さらに金に連動した暗号通貨ステーブルコインが加わり、世界の金融市場でドルに依存しない劇的な「新しい章」が始まる。
 この結果、ドルはユーロなどの主要通貨に対して20%下落し、金に対しては30%下落する。暗号通貨市場は4倍の10兆ドルを超える。

(2)エヌビディアの時価総額がアップルの2倍に膨れ上がる
 生成AI(人工知能)に情報技術大手やスタートアップ企業が群がるさまは、まさにゴールドラッシュのようだ。しかし、実際の金採掘ブームでは「確実に儲けられるのはシャベルを売る者だけだ」という格言がある。AIブームにおいても、確実に大きな利益を得るのは、膨大な計算を担う高性能半導体を設計し、データセンターのシステムをつくるエヌビディア社である。同社は2025年に計算能力を25倍向上させた新しいチップを発売し、史上最も収益性の高い企業となる。年間の利益はアップルが記録した1050億ドルを上回り、株式の時価総額は7兆ドルとなって、世界の他の企業を圧倒する。
 生成AIを使ってビジネスを拡大しようとするアップルなどのハイテク企業は、ゴールドラッシュに乗り遅れないために巨大なデータセンターを建設しなければならず、そのコストがかさむので、収益性はエヌビディアより低下する。

(3)中国は不況から脱出するために50兆人民元を注ぎ込む
 中国は世界の歴史上、例のない企業債務と不動産債務を抱え込んで深刻な不況に陥っている。不動産部門を中心に中国の企業債務はGDPの150%を超え、地方政府の債務もGDPの80%にのぼっている。これを緊縮財政で乗り切ろうとすれば、企業活動が低下し、デフレが進んで見通しが悪くなるだけだ。債務を帳消しにすれば、債権者である富裕層は破綻し、経済は一挙にしぼんでしまう。
 中国政府は、解決するには景気刺激(リフレ)策しかないと判断し、2025年とその後の数年間で50兆人民元(約1000兆円)の財政政策を発動する。この資金は企業の債務返済に使われるのではなく、中国経済に直接注入される。つまり、デジタル人民元として国民に配布され、消費に回るようにする。さらに、行政措置によって企業が労働時間を短縮し、勤労者の生活の質を高めるようにして、国民が余暇を楽しみ、結婚や出産に向かうよう奨励する。

(4)電気自動車ブームがOPECを終焉させる
 大手資産運用会社のシュローダーズは4年前、「2024年末には中国の電気自動車(EV)が500万台になり、市場シェアが15%になる」と予測した。しかし、現実はもっと勢いが強く、2024年9月にはEVの登録台数が800万台を超え、新車販売の市場シェアは45%を超えた。これは予想よりも何年も早い。
 2025年には石油で動くクルマはさらに少なくなり、OPEC(石油輸出国機構)は石油の生産制限が意味を持たなくなると感じるだろう。OPEC加盟国の大半は協定の失敗に気づき、内紛が起きて主要加盟国が脱退し、組織は灰燼に帰す。輸出国は市場シェアを維持するために増産し、石油価格は大幅に下がる。このため、航空会社、石油化学企業、物流会社は恩恵を受ける。しかし、低価格では北米のシェールオイルが赤字になるため生産を停止し、石油価格は新しい均衡点を見つけて安定する。

(5)自然災害が増えて大手保険会社が初めて破産
 2024年は米国や欧州で「100年に一度」と言われるような洪水や強風の災害が相次いだ。気象科学者は「今後は甚大な被害が10年に一度かそれ以上の頻度で起きるだろう」と見る。
 2005年に保険会社が400億ドルを請求されたハリケーン・カトリーナの数倍の被害をもたらす暴風雨が、2025年に発生する。支払い請求の準備金では足りず、大手保険会社の一つが破産した。再保険の仕組みが整っていなかったため、他の保険会社も危うくなり、業界全体にパニックが広がる。政府も乗り出し、保険料が大幅に高く設定され、その結果、多くの住宅の不動産価値が下落する。多くの国民にとって最大の資産である住宅の価値が不安定になり、消費者の信頼感が打撃を受ける。

 ・・・サクソ銀行は「これらの予測は当社の公式見解ではありません」と断っています。それでも毎年「とんでもない予測」を発表するのは、「ありえないと思われる事態を含め、あらゆる可能性を考慮するよう、投資家に注意を促すためです」「想像力の限界を押し広げてもらうための意図的な取り組みです」と述べています。

 いわば「頭の体操」ですね」。世界経済と国際政治が大きく揺れ動いている今、「頭の体操」は欠かせません。2025年が皆さんにとって良い年になりますように。なお、次週の1月5日はこのサイトを休載します。(イラストはサクソ銀行のHPから、サインと管理人・清水建宇)

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