カウンターパーティー・リスクの有無
欧米の金融記事を読むと、「カウンターパーティー・リスク」という言葉をよく見かけます。「カウンターパーティ」とは英語で「取引相手」の意味です。つまり、取引相手に異変が起きたり、約束を守らなかったり、あるいは取引条件が変わったりして、こちらが損をする危険性のことです。
あなたが、2023年に破綻した米国のシリコンバレーバンク(SVB)の預金者だったと仮定しましょう。この銀行は、準備資産として米国の国債や証券を保有していましたが、インフレを抑えるために中央銀行が利上げを進めた結果、国債や証券の価格が急落しました。そのうえ、取引先のベンチャー企業は利上げで資金調達が困難になったため同行から預金をどんどん引き出しました。その結果、銀行は破綻し、預金者は自分のおカネが返ってくるのかどうか、不安にかられるようになります。
預金がいくらまで保護されるか、預金保険公社の方針に注目が集まりますが、その方針は中央銀行や政府がどんな救済策を打ち出すかによって左右されます。預金を引き出したベンチャー企業を含めて、そうしたさまざまな要因が銀行預金の「カウンターパーティ・リスク」を構成しているわけです。
実は、預けるおカネそのものにもリスクがあります。米ドル(ユーロや円も)は米国の法定通貨ですが、新型コロナウイルス対策や経済のテコ入れ策などのために政府が国債を増発し、中央銀行が国債買い入れのためにドル紙幣をたくさん印刷すると、インフレを引き起こして、ドルの価値=購買力が下がってしまいます。
世界の多くの中央銀行は、米国債などのドル資産をたくさん保有し、自国通貨の信認を高めようとしてきました。しかし、ドル資産の「カウンターパーティ・リスク」が大きくなってきたことに気づき、ドル資産を売って金塊を購入するようになりました。2022年から24年まで、それ以前の2倍となる年間1000トンを買い続けています。
たしかにドル資産に比べると、金塊の「カウンターパーティ・リスク」はゼロに近い低さです。金塊には紙幣のような「発行者」がいません。金は国籍のないおカネです。3000年近く価値=購買力を維持してきた歴史があります。錆びたり変質したりすることはなく、輝きは永遠です。金の現物市場は大きく、イザというときには自由に売ることもできます。
では、暗号通貨のビットコインはどうでしょうか。これも特定の発行者がおらず、国籍はありません。ブロックチェーン技術によって、ネットワークの全員が取り引きの記録を共有し、公正さを保証します。「デジタル・ゴールド」と呼ばれるゆえんです。
しかし、ビットコインの「カウンターパーティ・リスク」は無視できません。たとえば、暗号資産取引所がハッカーに侵入される恐れがあります。2014年には当時「世界最大」と言われた「マウントゴックス」がハッカーに攻撃され、65万のビットコインが流出しました。
この事件では被害者の救済に対しても「法」というリスクが立ちはだかりました。被害者はビットコインによる支払いを望んでいるのに、破産関係の法律は現金での支払いしか認めていなかったために紛糾し、救済が始まるまでに10年もかかったのです。
国家の規制がリスクとなる場合もあります。中国は2017年にビットコインの取り締まりを強化し、世界最大の購入勢力だったチャイナ・マネーが手を引いたため、価格が30%以上も急落しました。
金の現物の場合、リスクは低くても「保管」という問題はあります。銀行の行員が貸金庫から現物の金や紙幣を盗んでいた事件が明るみに出て、貸金庫は安全とは言えなくなりました。でも、ちょっと想像して見てください。100gの金地金は4cm×2cm、厚さ2ミリで、小さなクラッカーと同じ大きさです。数枚あるいは十数枚くらいなら自宅のどこかに隠しておけるのではないですか。現物の金を自分のそばで保管すれば、リスクを「ゼロ」に近けることができます。
「いや、私はもっとたくさん持っているので、自宅に置くのは難しい」とおっしゃる方もおられることでしょう。世界に目を広げれば、そういう人は大勢いるでしょう。

ブルームバーグ通信によると、24年7月、シンガポールに世界最大級の貴金属保管庫「ザ・リザーブ」がオープンしました。6階建で、国際空港の近くにあり、1万トンの銀と500トンの金を預けられるようになっています。すでに世界中の富裕層から申し込みが殺到しているそうです。
現物の金をたくさん抱えて保管に悩んでいる方は、検討してはいかがでしょうか。(写真はBloomberg、サイト管理人・清水建宇)