なんと、日本は金の輸出国です!
金はすべての金属の中で3番目に電気を良く通します。重さ1グラムの豆粒ほどの金を数平方メートルに広げることができ、1gで3000メートルの線に延ばせます。金メッキするとハンダとしっかり結合するので、半導体やスマホなどの基盤に欠かせません。国内の金需要の半分近くはこうした産業向けです。
また、錆びることはなく、いつまでも美しい光沢を保つので、昔から歯科技工や宝飾品、美術工芸品にも使われてきました。
エネルギー・金属鉱物資源機構という行政法人は、金属ごとに需要と供給を詳しく調べ、変化を追跡しています。金についての年報によると、国内の金需要は年に約60トンです。
供給はどうでしょうか。鹿児島県にある住友金属鉱山の菱刈(ひしかり)鉱山は日本で唯一、金の商業生産をしています。鉱石の金含有率が世界でもトップクラスで、日本が誇る優良鉱山ですが、産出量は年に7トンほどです。それよりも銅や鉛、亜鉛を精錬する過程で副産物として得られる金がはるかに多く、これを含めた「新産金」が年に70トン近くあります。
つまり、需要と生産量は、ほぼ釣り合いが取れているのですが、日本は長年にわたり、大量の金を輸出してきました。年報は2017年までしか出ていませんが、この年の金輸出は214トンでした。新産金の3倍の量が海外に流れ出たわけです。
なぜ大量の輸出が可能なのか。理由の一つは、人びとが売った宝飾品や工芸品を回収し、精錬し直した「再生金」があることです。使用済みのスマホやパソコンを集めて金を取り出す専門業者がたくさんあり、これも含まれます。2017年には計55トンも再生されました。
統計上は、国内の取引業者の受け入れと払い出しの差が「国内流通」として供給側に計上されており、これが200トン以上もあって、やはり輸出されています。
日本からの金輸出が初めて年間100トンの大台を超えたのは2011年でした。このとき、ブルームバーグ通信は「日本の金輸出が100トン突破、個人の換金売り殺到で」と大きく報道しました。金の輸出先は、タイ、シンガポール、香港など経済発展が著しいアジア諸国が多く、さらに回収した宝飾品などをそのままスイスやオーストラリア、南アフリカなどの大手精錬所に送るケースも多いそうです。
金を取引する国際銀行の幹部は「産金国でもないのに、こんなに金を輸出する国は世界で日本だけだ」と語りました。
2018年以降の年報が出ていないので、最近の状況がよく分かりませんが、日経新聞は今年5月22日、「金価格高騰でリサイクル量拡大、4年ぶり高水準」と報じました。金価格が今年に入って急上昇した結果、宝飾品を売る人が増え、リサイクル業者も新たな精錬工場を稼働し始めたそうです。再生金の供給は1~3月だけで350トンに達し、4年ぶりの水準とか。この記事を読むと、日本の金輸出は今も続いていると見て良いでしょう。
しかし、世界をながめると、これは異様な光景です。先週の記事で紹介したように、韓国ではコンビニでも金を買い求める人が多く、金の輸入が増えています。中国は世界最大の金生産国でありながら人びとが金を求めるので民生用の金を大量に輸入しています。歴史的に金を好むインドやアラブ諸国も金の輸入が増えています。産金国でもないのに、せっせと金を輸出する日本はまさに世界の例外です。
では、日本人は自分の蓄えを守るために、おカネを何に換えているのでしょうか。報道を見る限り、マイホーム、つまり不動産のようです。昨年来、首都圏のマンション価格が高騰し、東京23区では1戸が1億円もするという記事がありました。
日本不動産研究所が5月30日に公表した調査結果によると、東京と大阪のマンション価格はこの6カ月間でどちらも1.5%上がり、世界の主要15都市のなかで上昇率がそろって「世界一」になりました。海外の投資家も買っているのでしょうが、国内の需要もいっこうに衰える気配がありません。
稲作が広がった弥生時代、田んぼを中心に定住する生活様式が一般化し、中世には開墾した領地を命に賭けても守るという「一所懸命」が武士たちの生き方になりました。土地に対するこだわりは、2000年の歴史を経て日本人の遺伝子に刷り込まれ、今も連綿と続いているのかもしれない。「東京と大阪が値上がり率、世界一」というニュースに、そんなことを考えてしまいます。(サイト管理人・清水建宇)