「金」の眼鏡で見た おカネの風景

どの大統領がどれだけ米ドルの価値を下げたか

 11月5日の米国の大統領選挙が迫ってきました。そこで、今回は過去35年間の6人の大統領在任中に、金価格がどれだけ上がったかを振り返ってみます。何度も書いたように、金の価格は米ドルの価値=購買力を測るモノサシであり、金価格の上昇は米ドルの価値下落を意味します。したがって、そのグラフは、在任中にどれだけ米ドルの価値を下げたかを表しています。

 米国のVisual CapitalistであるKayla Zhu氏は過去35年間の6人の大統領と、それぞれの在任期間中の金価格の動きをグラフ化し、米国のいくつかのネットメディアに掲載されました。それを引用します。

 最初のブッシュ(父)大統領と、次のクリントン大統領(2期)の12年間は、どちらも金価格が20%前後下がりました。つまりドルの価値は上がったわけです。

 しかし、両氏の在任中は、米国が欧州の中央銀行に働きかけて保有する金地金を売却させた「ワシントン合意」の時期と重なります。金価格を作為的に押し下げて、米ドルの価値を上げたわけですから、額面通りに受け取れません。

 ブッシュ(父)大統領は、就任後ほどなくゴルバチョフ・ソ連書記長との首脳会談に応じ、歴史的な「冷戦終結」を宣言しました。東側は、ベルリンの壁崩壊、ソ連崩壊と自滅し始め、米国は「平和の配当」を受け取りました。2年後にイラクのクウェート侵攻に対して湾岸戦争が起き、米国は多国籍軍を主導しましたが、5日間でクウェートを開放し、停戦したため、戦費もわずかで済みました。

 クリントン大統領の任期中には米国がかかわった戦争はなく、経済政策や財政健全化に力を入れることができました。2000年には2300億ドルの財政黒字を達成しました。財政の健全化に寄与したことは事実です。

 次のブッシュ(息子)大統領が就任した年の9月、同時多発テロが起き、ニューヨークのビル崩壊などで多くの犠牲者がでました。大統領は「テロとの戦い」を掲げ、アフガニスタンを爆撃しました。さらにイラクのフセイン大統領が大量破壊兵器を持っていると主張し、査察で証拠が見つからなかったのに、イラク戦争に突入しました。イスラエルはパレスチナの議長府をミサイル攻撃しました。戦乱は世界を不安に陥れ、安全な資産である金の需要が高まりました。ブッシュ(息子)大統領の在任中は欧州の中央銀行が保有金の売却を続けていた時期ですが、それでも金価格は2倍以上上がり、ドルの価値は半減しました。

 バラク氏は史上初のアフリカ系有色人種の大統領です。「オバマケア」と呼ばれる医療保険制度改革に取り組み、ロシアとの核兵器削減交渉を進め、ノーベル平和賞を受賞しました。就任してまもなく欧州の中央銀行による売却は終わり、金価格が上がりました。その後、先物市場での空売りを使った新たな金価格の押し下げが本格化します。在任中の金価格が「凸」型なのはそれらが原因かもしれません。

 トランプ大統領の4年目に新型コロナのパンデミックが起きました。当初は医療機関の提言に対して消極的でしたが、ウィルスの猛威はすさまじく、トランプ大統領は2020年3月から2カ月足らずのうちに総額2兆9700億ドルもの経済対策事業を打ち出しました。続くバイデン政権もコロナ禍対策で巨額の予算を組み、その後にロシアがウクライナに侵攻するとウクライナへの軍事・経済支援を主導しました。

 このため、両氏の在任中に米国の債務は急増し、トランプ政権で7兆4500億ドル、バイデン政権で現在までに約6兆ドルも増えました。米ドルの価値が下がる要因です。

 このグラフは少し前につくられたので、バイデン政権の最近の金価格が「2523ドル」となっています。しかし、ロンドン現物価格はその後も高値を更新し続け、10月25日は220ドルも上がって、「2747ドル」になりました。大統領の任期が終わる来年1月までに、金価格はさらに上がりそうです。バイデン氏の成績はまだ分かりません。(サイト管理人・清水建宇)

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