「金が最高値を更新」の記事に疑問がある
9月12日と13日、ニューヨーク先物市場で金は急騰を続け、取り引きの中心である12月物は2日間で1オンス=計68.3ドルも上昇して2610ドルを超えました。2日連続の最高値更新です。12日の日経新聞は「金NY先物が最高値を更新、米利下げに期待」の見出しでこれを報道しました。
私はこの記事に疑問を感じています。
日経新聞の記事は、「9月12日に発表された米国の8月卸売物価指数が市場予想の範囲内だった」「8月の消費者物価指数も同様だった」「だから連邦制度理事会(FRB)はまもなく利下げを行うと思われる」「利下げが意識されるので、金利がつかない金への資金流入が続いている」という論理を展開しています。インフレが収まりつつあるので、FRBはまもなく金利を下げるだろう。「米利下げに期待」の見出しは、この見通しをもとにしています。
金は利子がつかない。したがって、金利が下がると投資の妙味が増し、逆に金利が上がる局面では金投資は不利になる――日経新聞に毎日掲載される商況欄では、いつも金利と関連づけて金の値動きが説明されてきました。
しかし、これは事実と合いません。コロナ禍の経済混乱を救うために「ゼロ金利」を続けてきたFRBが、一転して金利を上げ始めたのは2022年3月です。インフレを抑えるためです。この時の金価格は1オンス=2000ドル前後でした。
FRBは通常の3倍となる0.75%の大幅な利上げを4回も続けるなど、過去に例のない急ピッチで金利を引き上げ、1年2か月後には5~5.25%としました。この高金利が今も続いています。では、金の価格がどうなったかというと、利上げの半年後に1オンス=1600ドル近辺まで下がったものの、その後は金利の上昇局面でも上がり続け、これまでに1000ドル近く急騰しました。金利の上昇にもかかわらず、金価格は大幅に上がったわけです。
では、金が最高値を更新した理由は何でしょうか。
私はこのブログの14回目で、「金はXAUという通貨コードを持ち、他の通貨と比較することによって、その通貨の価値=購買力を計るモノサシの役割を果たしている」と書きました。したがって、金が対ドルで最高値を付けたということは、ドルの価値=購買力が最低値になったことを意味していると考えます。
でも米国政府が発表する物価上昇率は落ち着いているじゃないかと、疑問を抱かれる人も多いことでしょう。私は、米国政府が発表する数字がインフレの現実を正確に表したものなのかと、逆の疑問を抱かざるを得ません。
米国政府は消費者物価指数(CPI)の計算方法をこれまで何度も変えてきました。1998年には「物価のデータがインフレを誇張している」という理由で、商品の品目や物価に占める比率を全面的に変更しました。現在の計算式では、エネルギーと食品は26.6%、約4分の1とされています。
しかも、価格の季節変動が大きいという理由で食料とエネルギーを除き、それ以外の品目で作成した指数を「コアCPI」と呼んで、経済政策で重視してきました。一般市民の生活に密接に結びついているエネルギーと食料は、物価統計でないがしろにされているのです。
金が最高値を更新した9月12日、米国で「マクドナルドの格安メニューは12月まで延長される」と報道され、話題になりました。
ハンバーガーは米国の庶民にとって欠かせない食べ物ですが、この3年間で3倍近く値上がりし、コーラやフライドポテト、チキンナゲットと組み合わせた「コンボメニュー」は18ドルになりました。日本円で2500円です。
中間層以下の市民にとっては手を出しにくい価格になって売り上げが減少したため、マクドナルドは今年6月、5ドルで食べられる「ミールディール」を期間限定で売り出しました。この格安メニューを12月まで延長することにしたわけです。
マクドナルドとインフレーションをつないだ「McFlation(マックフレーション)」という言葉が米国で広がっています。この指数は3年間で300%近く上がったわけです。他の食品でも中味を減らして価格を据え置く「ステルス(見えない)インフレーション」が横行しています。「年率3~4%」という政府発表の物価上昇率は、市民の生活実感に合いません。
インフレの実態は隠されており、ドルの価値=購買力は物価統計が示す数字よりも落ち込んでいるはずです。こうした現実が、ドルの価値のモノサシである金価格を押し上げているのではないか。私の疑問は消えません。(サイト管理人・清水建宇)