「金」の眼鏡で見た おカネの風景

⑥「健全なおカネを取り返せ」

 ドルと金との交換を打ち切ったニクソン・ショックから4年後、米国ではようやく国民が金や金貨を所有することが許されました。大恐慌のさなか、ルーズベルト大統領が国民の金所有を厳罰で禁止して以来、42年ぶりです。

 しかし、米国民の金への関心は、さほど高まりませんでした。余りにも長く金から遠ざけられてきたことに加え、買うときも売るときも課税されるので、魅力が乏しかったのです。

 日本の国税庁にあたる連邦政府の内国歳入庁は、金貨や銀貨を切手や野球カード、古銭などと同じ「収集品」に分類し、市民が売って利益が出た場合、28%ものキャピタルゲイン(売却利益)税を課しました。買うときには消費税がかかります。売るときにも売却利益税がかかります。これでは金や金貨を買う人は一部の愛好家しかいません。

 しかし、4年ほど前から全米の州議会で、金や金貨などに課税させない法案が相次いで提案され、可決される動きが広がりました。最新の議決は4月12日、ケンタッキー州で行われました。「金、銀、プラチナ、パラジウムの地金、およびそれらの貴金属でつくられた硬貨に対する消費税を免除する」法案が州議会を通り、ケンタッキーは金などに消費税を課さない45番目の州になったのです。

 全米50州の中で、まだ消費税を課している州は5つ。そのうちのニュージャージー州ではすでに州上院で可決されており、46番目を目指しています。

 売却利益についても、アラバマ州知事は5月14日、金と銀の売却による利益への課税を撤廃する法案に署名しました。これで、アラバマは金や金貨の売却利益に課税しない13番目の州になりました。

 連邦議会でも同じような動きが始まっています。5月8日、アレックス・ムーニー下院議員は「貨幣金属税中立法」案を議会に再提出しました。金、銀などの地金や硬貨の売却・交換に際してキャピタルゲイン税を課さない、という内容です。

 ムーニー議員は「米国憲法に照らして、金貨と銀貨は貨幣であり、貨幣に税金をかけるのはおかしい」と主張しました。さらに「もし売る時に値上がりしていたとしても、それは通貨を発行する連邦制度によってインフレが起こり、ドルの購買力が下がったことによって生じたのであり、名目上の利益にすぎない」と述べました。

 こうした法律の広がりを後押ししているのはSound Money Defense League という市民団体です。「健全なおカネの防衛連盟」と訳すことができるでしょうか。標語に「金と銀をアメリカの憲法上の通貨として取り戻す」を掲げています。

 ほとんどの州が金や金貨の販売に課税しなくなったことを受けて、米国でも金の販売が急増しています。全米に583店舗を持つ会員制量販店のコストコは、昨年8月から1オンスの金地金を売り始めました。写真にあるように、スイス製で、純度は99.99%。世界中で「純金」として通用します。

 価格はロンドン市場のスポット価格に2%の手数料を上乗せして算出するようですが、上級会員向けには割引があるなど、細かい差があります。最初の3ヶ月間で1億ドル(約150億円)を売り、今年からは1ヶ月に1~2億ドルに仕入れを増やしました。それでも予約が多く、ウエブサイトに「入荷」を告知した瞬間に売り切れとなる人気です。

 貴金属商やコイン店、通販サイトでも、金地金や金貨、銀貨の売れ行きが伸び、カタログには「品切れ」が目立つようになりました。

なんとしてもドル紙幣を守りたい連邦政府やドルを発行する連邦制度と、ドルではなく金を「正しいおカネ」にしようとする各州や米国民との間には亀裂が生じ、その溝がますます広がりつつあるように思われます。 (サイト管理人・清水建宇)

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