「金」の眼鏡で見た おカネの風景

③日本へ金を密輸出すると大儲けする理由

 金地金の値段は、ロンドン貴金属市場協会(LBMA)が午前と午後に発表するドル建て価格に基づきます。「ロンドンフィックス」と呼ばれるこの価格に、各通貨の為替相場を当てはめ、さらに消費税や付加価値税などを加算して、国ごとの金価格が決まります。

 日本では金地金は「商品」として扱われ、原油や銅、大豆などと一緒に新聞の「商品市況欄」に価格が掲載されます。商品なので、買うときは消費税の10%が上乗せされます。

 しかし、金を非課税で買える国・地域がたくさんあります。シンガポールでは物品税も付加価値税もかけられません。香港も非課税。台湾も非課税で、2万米ドル以内であれば申告の必要もありません。ドバイでは純度99%未満の金地金には5%の付加価値税が課せられますが、99%以上の純金は無税で買えます。純金は投資のためのもの、つまりおカネだという考え方です。

 では、シンガポールなど非課税の国で金地金を買い、こっそり日本に持ち込んで売れば、どうなるでしょう。消費税の分が手元に残る計算です。

 日本への金の密輸出が増えたのは、消費税率が8%に引き上げられた2014年からです。8%の利ザヤを確実に狙えるというので、密輸グループが暗躍し始めました。

 日本で摘発された最大の金密輸は、2017年に佐賀県唐津市の漁港で206kgを押収した事件です。日本人と中国人から成る密輸グループは、金地金を積んだ漁船を東シナ海に向かわせ、荷受け側は日本から小型船で同じ海域に向かい、海上で金を受け取った後、漁港に運び込もうとして、計9人が逮捕されました。海で品物を受け渡す「瀬取り」と呼ばれる手口で、この方法による密輸の初めての摘発でした。

 当時の金価格で計算すると、206kgの金は約10億円に相当します。消費税率は8%だったので、非課税国で金を合法的に仕入れたとしても、1回の犯行で8000万円もの利益を手にできると皮算用していたでしょう。

 一般の旅行者が、非課税国で金地金を買い、日本で売ろうと思っても、厚い壁があります。純度90%以上の金を1kg以上持ち込むに場合は申告を義務付けられ、それ以下の重量でも、価格が20万円以上であれば消費税を納めなければなりません。免税が認められるのは20万円以下だけなので、帰国後に売ったとしてもわずかな差額を得られるだけです。

 しかし、組織的に大量の金を日本に持ち込んだ場合の利益は、唐津漁港の密輸グループがもくろんだように巨額になります。消費税が10%に上がった現在は、利ザヤがさらに増えて、ますます「儲かる犯罪」になりました。

 今年4月8日に香港税関が発表した密輸グループの手口は驚くほど巧妙でした。モーターや部品を純金でつくり、2台の空気圧縮機の中に納めて、架空の会社名義で日本に空輸しようとしたのです。

 発覚したのは、機械が入った木箱をX線検査機にかけたところ、中心にきわめて密度の高い部分があることがわかり、税関職員が疑問を抱いたためです。機械を分解すると、密度の高い部分はモーターの内部にあり、軽くたたいただけで凹みがつくような柔らかい金属でできていました。銀色の塗装をはがすと、山吹色の金が表れました。

 押収した純金は146kg、日本円で18億4000万円相当。密輸グループは1回の犯行で1億8000万円を荒稼ぎするつもりだったのです。

 写真は純金でつくった部品です。これを作るのに、設備や技術者が必要だったでしょう。日本に持ち込んだ後で、部品を1kgのインゴットに鋳直す必要もあります。かなり大きな組織でなければ実行できません。今回は税関職員の機転で食い止めましたが、摘発は氷山の一角にすぎないと思われます。

 ここで疑問が浮かびます。なぜ金に課税する国と、課税しない国に分かれているのでしょうか。そもそも金(ゴールド)は「おカネ」なのか、それとも「商品」なのか。(サイト管理人・清水建宇)

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